まえがき
前回の記事では、尿が出にくい・出ない「尿閉」について、その原因や尿道カテーテルによる治療を解説しました。
👉 「尿が出にくい・出ないのはなぜ?尿閉の原因とカテーテル治療を泌尿器科医が解説」
尿道カテーテルを抜いたあとも、自分で十分に尿を出せない場合があります。
そのようなときに検討される方法の一つが、
清潔間欠導尿(CIC:Clean Intermittent Catheterization)
です。
「自己導尿って自分で管を入れるの?」
「痛くないの?」
「1日に何回やるの?」
「感染しないの?」
初めて自己導尿を勧められた患者さんは、このような不安を感じることが少なくありません。
今回は、泌尿器科医として排尿障害の診療に携わってきた経験から、自己導尿とはどのような方法なのか、やり方や回数、感染症、外出時の注意点までできるだけ分かりやすく解説します。
自己導尿(CIC)とは?
自己導尿とは、自分で尿道から細いカテーテルを膀胱まで挿入し、たまった尿を排出する方法です。
正式には、
清潔間欠導尿(CIC:Clean Intermittent Catheterization)
と呼ばれます。
「間欠的」という言葉のとおり、尿道カテーテルをずっと膀胱の中に入れておくわけではありません。
必要な時間になったら、
カテーテルを入れる
↓
膀胱内の尿を出す
↓
カテーテルを抜く
という操作を繰り返します。
つまり、1回ごとにカテーテルを出し入れする排尿管理法です。
尿道留置カテーテルとの違いは?
尿道留置カテーテルの場合は、カテーテルを尿道から膀胱まで入れたままにして、尿を持続的に体外へ排出します。
一方、自己導尿では、尿を出すときだけカテーテルを使用します。
そのため、導尿と導尿の間は尿道の中にカテーテルが入っていない状態になります。
膀胱から十分に尿を排出できない患者さんで間欠導尿が可能な場合、CDCは長期的な尿道留置カテーテルや膀胱瘻よりも、間欠導尿を優先することを推奨しています。CDC
【参考】米国CDC「Guideline for Prevention of Catheter-Associated Urinary Tract Infections/Summary of Recommendations」
どんな人に自己導尿が必要になる?
自己導尿は、自分である程度排尿できない、または排尿後に多量の尿が膀胱に残ってしまう人に検討されます。
例えば、
- 尿道カテーテルを抜いたあとも尿が十分に出ない
- 神経因性膀胱などで膀胱を十分に空にできない
- 排尿しても残尿が多い
- 高圧での排尿が続き、腎臓や尿路への負担が心配される
などの場合です。
日本泌尿器科学会・日本排尿機能学会のガイドラインでは、腎障害や症候性尿路感染の危険因子、高圧排尿、有意な残尿、膀胱変形などが認められる場合には、尿路管理方法としてCICを選択することが望ましいとされています。日本泌尿器科学会
【参考】日本泌尿器科学会・日本排尿機能学会「脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン2019」
自己導尿はどのように行う?
基本的な流れは非常にシンプルです。
まず手を清潔にします。
その後、カテーテルを尿道口からゆっくり挿入し、膀胱まで進めます。
カテーテルが膀胱に入ると尿が流れ始めます。
尿の流出が止まったことを確認したら、カテーテルをゆっくり抜きます。
実際の手技については、初めて行う際に医師や看護師などから十分な指導を受けることが重要です。
CDCも、カテーテルの挿入や管理について適切な訓練を受けた患者本人、家族または医療従事者が行うことを推奨しています。CDC
【参考】米国CDC「Summary of Recommendations」
自己導尿用のカテーテルにはどんな種類がある?
自己導尿に使用するカテーテルには、いくつかの種類があります。
大きく分けると、
・1回ごとに使い捨てるタイプ
・洗浄・管理しながら繰り返し使用するタイプ
などがあります。
また、表面が水分を含むことで滑りやすくなる親水性コーティングカテーテルなどもあります。
CDCでは、間欠導尿が必要な患者では、親水性カテーテルが一般的なカテーテルより適している可能性があるとしています。CDC
どの製品を使うかは、病院や患者さんの状態、使いやすさなどによって異なります。
自己導尿は1日何回行う?
ここは患者さんから非常によく聞かれる質問です。
「1日3~4回」と説明されるケースもありますが、すべての人が同じ回数ではありません。
導尿回数は、
- 1日の尿量
- 自分で出せる尿の量
- 残尿量
- 膀胱容量
- 尿路内圧
- 水分摂取量
- 昼間と夜間の尿量
などをみながら決めます。
日本泌尿器科学会のガイドラインでも、尿流動態検査などの所見をもとに、導尿回数や導尿間隔を設定するとされています。日本泌尿器科学会
CDCも、間欠導尿を行う場合には、膀胱が過度に膨らまないよう規則的な間隔で行うことを推奨しています。CDC
したがって、
「何時間おき」「1日何回」という回数については、主治医から指示された間隔を守ること
が大切です。
自己導尿は痛い?
「尿道から管を入れる」と聞くと、痛そうだと感じる方も多いと思います。
初めのうちは、カテーテルを入れるときに違和感や軽い痛みを感じることがあります。
しかし、適切な太さのカテーテルを使用し、正しい方法を身につけることで、日常生活の中で継続できる患者さんは少なくありません。
重要なのは、強い抵抗があるのに無理にカテーテルを押し込まないことです。
無理に挿入すると、尿道を傷つけて出血などを起こす可能性があります。
カテーテルが入りにくい、痛みが強い、繰り返し出血するという場合には、無理をせず泌尿器科へ相談してください。
自己導尿で尿路感染症は起こる?
自己導尿を行っていても、尿路感染症がまったく起こらないわけではありません。
ただし、膀胱排出障害のある患者さんで間欠導尿が可能な場合には、長期間尿道カテーテルを留置する方法より間欠導尿が推奨されています。CDC
自己導尿では、カテーテルを常に尿道内へ留置しているわけではない点が大きな違いです。
また、慢性的に間欠導尿を必要とする非急性期の患者さんでは、CDCは無菌操作ではなく清潔操作による間欠導尿も、実用的で許容される方法としています。CDC
【参考】米国CDC「CAUTI Evidence Review」「Summary of Recommendations」
ただし、
- 発熱
- 悪寒
- 強い排尿時痛
- 下腹部痛
- 腰背部痛
- 血尿が続く
- 全身状態が悪い
などの症状がある場合には、尿路感染症などの可能性もあるため、医療機関へ相談してください。
自己導尿では「完全な無菌操作」が必要?
「毎回、病院の処置のように完全に無菌にしなければいけないのでは?」
と心配される方もいます。
CICの「C」はClean、つまり清潔という意味です。
慢性的に自己導尿を行う非急性期の患者さんでは、CDCは清潔操作による間欠導尿を、無菌操作に比べて実用的で許容される方法としています。CDC
ただし、これは「衛生面を気にしなくてよい」という意味ではありません。
手指衛生を行い、医療者から教わった方法を守って導尿することが重要です。
自己導尿をしながら外出できる?
自己導尿をしているからといって、外出ができなくなるわけではありません。
カテーテルや必要な物品をバッグに入れて持ち歩き、外出先のトイレで導尿することも可能です。
慣れてくると、
- 買い物
- 外食
- 映画
- 旅行
- 仕事
などの日常生活を続けながら自己導尿を行っている方もいます。
ただし、外出しているからといって長時間導尿を我慢すると、膀胱が過度に膨らんでしまうことがあります。
主治医から指示された導尿間隔をできるだけ守ることが大切です。
日本泌尿器科学会のガイドラインでも、外出時などCICが困難な場合について、患者さんの状態に応じた別の尿路管理方法を検討することが記載されています。日本泌尿器科学会
自分で自己導尿できない場合はどうする?
自己導尿という名前から、
「自分の手でできないと、この方法は使えない」
と思われがちです。
しかし、必ずしもそうではありません。
例えば、
- 手に麻痺がある
- 手指の細かい操作が難しい
- 視力が低下している
- 身体的な理由で尿道口へ手が届きにくい
- 認知機能の問題がある
などの場合には、本人による自己導尿が難しいことがあります。
その場合でも、家族や介助者が導尿を行えるケースがあります。
日本泌尿器科学会のガイドラインでも、CICを検討する際には、患者本人または家族によるCICが可能かどうかを判断するとされています。日本泌尿器科学会
できないからといって無理に自己導尿を続ける必要はありません。
患者さんの身体状況や生活環境に応じて、尿道留置カテーテル、膀胱瘻など別の方法を検討することがあります。
自己導尿中に受診した方がよい症状は?
自己導尿に慣れていても、次のような症状がある場合には注意が必要です。
- カテーテルが急に入らなくなった
- 強い痛みがある
- 出血が多い、または血尿が続く
- 導尿しても尿が出ない
- 発熱や悪寒がある
- 腰や背中に強い痛みがある
- 尿が著しく濁り、体調も悪い
このような場合は、無理に何度もカテーテルを挿入せず、医療機関へ相談してください。
まとめ|自己導尿は膀胱を守るための大切な排尿管理法
清潔間欠導尿(CIC)は、膀胱にたまった尿を自力で十分に排出できない患者さんが、必要な時間ごとにカテーテルを使って尿を排出する方法です。
尿道留置カテーテルのように管を常時入れておくのではなく、
必要なときに入れる
↓
尿を出す
↓
抜く
という操作を繰り返します。
CICが適切に行える患者さんでは、膀胱排出障害に対する重要な尿路管理方法の一つです。日本泌尿器科学会のガイドラインでも、高圧排尿や有意な残尿などがある場合にはCICが重要な選択肢とされています。日本泌尿器科学会
回数については「全員1日○回」と決まっているわけではありません。
膀胱容量や残尿量、1日の尿量などを確認しながら、患者さんごとに導尿回数や間隔を決めます。
また、自己導尿は「自分一人で行わなければいけない方法」でもありません。
本人による操作が難しい場合には、家族や介助者による導尿が可能なケースもあります。
最初は「自分で尿道にカテーテルを入れるなんてできるだろうか」と不安に感じる方も多いと思います。
しかし、医師や看護師から正しい方法を教わり、何度か練習することで日常生活に取り入れられる方も少なくありません。
大切なのは、自己判断で回数や方法を変更せず、泌尿器科などで定期的に排尿状態を確認しながら続けることです。
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参考資料
この記事は、筆者自身の泌尿器科診療経験に加え、以下の医学的資料を参考に一般の方向けにまとめています。
- 日本泌尿器科学会・日本排尿機能学会
「脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン2019」
CICについて、適応、患者または家族による実施可能性、導尿回数・間隔などが解説されています。日本泌尿器科学会 - 米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)
「Guideline for Prevention of Catheter-Associated Urinary Tract Infections」
「Summary of Recommendations」
間欠導尿と留置カテーテルの位置づけ、清潔操作、導尿間隔などについて参考にしています。CDC - CDC Evidence Review
清潔間欠導尿と無菌的間欠導尿、間欠導尿と留置カテーテルなどのエビデンスレビューを参考にしています。CDC
※本文は上記資料を参考に筆者が一般の方向けに再構成したものであり、各資料の文章をそのまま転載したものではありません。
この記事を書いた人
YUKI|泌尿器科専門医
泌尿器科専門医・指導医として、排尿障害をはじめとする泌尿器科診療に携わってきました。
現在は在宅医療にも携わり、通院が難しくなった方の診療も行っています。
このブログでは、医師としての専門知識と実際の診療経験をもとに、50歳からの健康・お金・暮らしについて、できるだけ分かりやすくお伝えしています。
※この記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個々の患者さんの診断や治療を代替するものではありません。自己導尿の方法や回数については、必ず担当医・医療スタッフから指導を受けてください。


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