あわせて読みたい|尿閉についてもっと詳しく知りたい方へ
尿が出にくい、あるいは尿がまったく出なくなる「尿閉」は、その原因によって治療方法が異なります。
今回の記事では尿閉の治療法について解説していますが、尿閉が起こる原因や、尿を出すための具体的な管理方法については、以下の記事でも詳しく説明しています。
■ まず、尿閉の原因について知りたい方へ
👉「尿が出にくい・出ないのはなぜ?尿閉の原因とカテーテル治療を泌尿器科医が解説」
尿閉はなぜ起こるのか、どのような病気が関係しているのか、尿道カテーテルによる対応などについて解説しています。
■ 自己導尿(CIC)について詳しく知りたい方へ
👉「自己導尿(CIC)とは?やり方・回数・感染リスクを泌尿器科医が解説」
尿道カテーテルを抜いたあとも自力で十分に排尿できない場合などに検討される、自己導尿の方法や注意点について解説しています。
ご自身の症状や知りたい内容に合わせて、ぜひ参考にしてみてください。
外科的治療|原因によって手術方法は大きく異なる
尿が出にくい、あるいは尿閉になった場合でも、すべての患者さんが手術になるわけではありません。
まずは尿を安全に排出したうえで、
- なぜ尿が出なくなったのか
- 前立腺や尿道に物理的な狭窄があるのか
- 膀胱の収縮力が残っているのか
- 年齢や持病
- 麻酔や手術に耐えられるか
- 患者さん本人の希望
などを総合的に判断して治療法を決めます。
特に男性では、前立腺肥大症による尿道の圧迫が尿閉の原因になっていることが多く、その場合には前立腺に対する手術が検討されます。
日本泌尿器科学会のガイドラインでは、前立腺肥大症に対する治療はまず薬物療法などの保存的治療が基本ですが、薬の効果が不十分な場合、中等度~重度の症状がある場合、尿閉・尿路感染症・血尿・膀胱結石などの合併症がある場合には手術療法を検討するとされています。(日本泌尿器科学会)
【参考】日本泌尿器科学会「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」、経尿道的水蒸気治療に関する適正使用指針
前立腺肥大症に対する代表的な手術
TURP(経尿道的前立腺切除術)
TURPは、尿道から内視鏡を入れ、尿道を圧迫している前立腺の内側部分を電気メスで少しずつ削り取る手術です。
お腹を切らず、尿道から行う手術です。
長年、前立腺肥大症の標準的な手術として行われてきました。
日本泌尿器科学会のガイドラインでは、TURPは標準術式の一つとして高く推奨されています。(日本泌尿器科学会)
どんな人に適している?
代表的には、
- 薬を飲んでも排尿症状が十分に改善しない
- 尿閉を繰り返す
- 前立腺肥大症による膀胱出口の閉塞が明らか
- 尿路感染症や膀胱結石などを繰り返す
といった患者さんです。
前立腺の大きさや全身状態などをみながら、ほかの術式と比較して選択します。
HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)
HoLEPは、尿道から内視鏡を入れて、レーザーを使い、肥大した前立腺の部分を“みかんの実を皮からくり抜くように”内側からはがして取り除く手術です。
「削る」というよりも、肥大した組織をまとまって取り除くイメージに近い方法です。
日本泌尿器科学会のガイドラインでも、HoLEPは前立腺肥大症に対する推奨度の高い術式の一つです。(日本泌尿器科学会)
『臨床泌尿器科』でも、HoLEPは肥大した前立腺を外科的被膜から核出して尿の通り道を広げる方法として解説されています。(医書ジェーピー)
どんな人に適している?
比較的大きな前立腺にも対応しやすいという特徴があります。
また、前立腺肥大症による尿閉でカテーテルが必要になっている患者さんでも、全身状態が手術に耐えられる場合には、HoLEPなどの内視鏡手術が選択肢になります。『臨床泌尿器科』でも、前立腺肥大症による尿閉でカテーテル管理となっている患者では、麻酔下手術が可能ならTUR系手術やHoLEPなどが原則的な選択肢とされています。(医書ジェーピー)
PVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)
PVPは、尿道から内視鏡を入れ、レーザーを前立腺に当てて、尿道を圧迫している前立腺組織を蒸発させるように減らす治療です。
TURPが「削る」、HoLEPが「くり抜く」とすれば、PVPは**「レーザーで蒸散させる」**と考えるとイメージしやすいと思います。
日本泌尿器科学会のガイドラインでも、PVPは前立腺肥大症に対する推奨度の高い術式として位置づけられています。(日本泌尿器科学会)
どんな人に適している?
前立腺の大きさ、出血リスク、服用している薬などを考慮して選択されます。
ただし、どの術式が最も適しているかは、前立腺の形や大きさ、患者さんの全身状態、術者の経験、病院の設備などで変わります。
TUEBなどの前立腺核出術
TUEBは電気的なエネルギーを利用して、HoLEPと同様に肥大した前立腺組織を内側からはがして取り除く方法です。
前立腺肥大症に対する経尿道的手術は現在かなり多様化しており、『臨床泌尿器科』でも、TURPからHoLEP、TUEB、レーザー蒸散術などへ治療選択肢が広がっていることが解説されています。(医書ジェーピー)
体への負担を抑えた治療もある
近年は、高齢者や持病がある患者さんなどを対象として、従来の手術より体への負担を抑えることを目的とした治療も行われるようになっています。
代表的なものが、
- UroLift
- Rezūm(水蒸気治療)
です。
UroLift(経尿道的前立腺吊り上げ術)
UroLiftは、前立腺の組織を切除するのではなく、肥大した前立腺を小さなインプラントで左右に引っ張り、尿道を広げる治療です。
イメージとしては、
狭くなった通り道を、左右から引っ張って広げる
という方法です。
日本では2022年から保険診療で行われており、日本泌尿器科学会などから適正使用指針が出されています。(日本泌尿器科学会)
どんな人に適している?
すべての前立腺肥大症患者さんに適するわけではありません。
前立腺の大きさや形、閉塞の程度などを確認したうえで適応を判断します。
従来の切除・核出手術と比べて低侵襲な治療を希望する患者さんや、全身状態などを考慮して選択される場合があります。
Rezūm(水蒸気治療)
Rezūmは、内視鏡を使って前立腺の肥大した部分に針を刺し、高温の水蒸気を注入して前立腺組織を徐々に小さくする治療です。
日本泌尿器科学会の2026年の適正使用指針では、前立腺肥大症による下部尿路症状に対して使用され、壊死した組織は1~3か月かけて体内に吸収されるとされています。(日本泌尿器科学会)
どんな人に適している?
日本泌尿器科学会の適正使用指針では、前立腺体積30~150mL程度が一つの目安とされています。(日本泌尿器科学会)
特に、
- 薬では十分な効果が得られない
- 手術療法が必要
- ただし年齢や持病などから従来のTURP・HoLEP・PVPなどでは負担が大きい
といった患者さんで検討されることがあります。(日本泌尿器科学会)
ただし、効果が出るまでにはある程度時間がかかります。
尿道狭窄が原因の場合は治療が異なる
尿が出にくい原因が前立腺肥大症ではなく、**尿道そのものが狭くなっている「尿道狭窄症」**である場合は、治療方法が異なります。
代表的な方法には、
- 尿道拡張
- 内尿道切開術
- 尿道形成術
があります。
日本泌尿器科学会の「尿道狭窄症診療ガイドライン2024」では、従来行われてきた尿道拡張や内尿道切開術は再狭窄が問題となることがあり、現在は尿道形成術の重要性が強調されています。(日本泌尿器科学会)
内尿道切開術
尿道から内視鏡を入れ、狭くなった部分を内側から切開して尿道を広げる手術です。
比較的短い狭窄などでは選択肢になります。
ただし、再び狭くなることがあります。
尿道形成術
尿道形成術は、狭くなった尿道を切除してつなぎ直したり、口の中の粘膜などを使って尿道を広げたりする手術です。
内尿道切開術などを繰り返しても再狭窄する患者さんでは、尿道形成術が検討されます。
日本泌尿器科学会のガイドラインでは、尿道形成術は経尿道的治療より高い治癒率を期待できる標準的治療として位置づけられています。(日本泌尿器科学会)
ただし、狭窄の場所・長さ・原因などによって術式が異なるため、尿道再建手術を多く行っている専門施設での治療が望ましい場合があります。
「手術をすれば必ず尿が出る」とは限らない
ここは非常に大切なポイントです。
尿が出にくい患者さんのなかには、
尿の出口が狭いだけではなく、膀胱そのものの収縮力が弱くなっている方
もいます。
例えば、
- 前立腺肥大症による閉塞
- 膀胱収縮力低下
が両方存在している患者さんもいます。
『臨床泌尿器科』でも、前立腺肥大症手術の目的は膀胱出口部の閉塞を解除することですが、排尿筋低活動と膀胱出口部閉塞は症状が似ており、両者が混在する症例もあると解説されています。(医書ジェーピー)
つまり、
前立腺を手術して尿の通り道を広げても、膀胱の押し出す力が非常に弱ければ、自力排尿が十分に回復しない場合があります。
そのため、特に長期間尿閉が続いている患者さんなどでは、手術前に膀胱機能を評価することも重要になります。
手術以外の排尿管理が最適な場合もある
年齢が高いから必ず手術できないわけではありません。
反対に、若いから必ず手術するわけでもありません。
- 年齢
- 心臓・肺などの持病
- 抗凝固薬・抗血小板薬
- 認知機能
- ADL
- 前立腺や尿道の状態
- 膀胱の収縮力
- 本人の希望
などを総合的に判断します。
手術によるメリットよりも負担や危険性の方が大きいと判断される場合には、
尿道留置カテーテル
または
清潔間欠導尿(CIC)
などで長期的に排尿管理を行うこともあります。
まとめ|尿が出ないときの治療は「原因」を見極めることが重要
おしっこが出なくなった場合、まず重要なのは膀胱にたまった尿を安全に外へ出すことです。
その方法として、
- 尿道留置カテーテル
- 清潔間欠導尿(CIC)
- 自排尿が可能なら薬物治療
などがあります。
しかし、これはあくまで「排尿を確保するための方法」です。
本当に重要なのは、
「なぜ尿が出なくなったのか」
を調べることです。
前立腺肥大症による閉塞であれば、TURP、HoLEP、PVP、TUEB、UroLift、Rezūmなどが選択肢になります。日本泌尿器科学会のガイドラインでも、前立腺の状態だけでなく患者さんの背景、設備、術者の経験などを考慮して術式を選択するとされています。(日本泌尿器科学会)
一方、尿道狭窄であれば、内尿道切開術や尿道形成術など、まったく異なる治療が必要になります。(日本泌尿器科学会)
さらに、膀胱の収縮力そのものが低下している場合には、手術を行っても十分に自排尿できないケースがあります。
そのため、尿閉の治療は、
「カテーテルを入れる・抜く」だけではなく、原因を調べ、その人に合った排尿方法を選ぶこと
が非常に重要です。
参考資料
この記事では、筆者自身の泌尿器科診療経験に加えて、以下の医学資料を参考にしています。
日本泌尿器科学会/日本排尿機能学会
「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」(日本泌尿器科学会)
日本泌尿器科学会ほか
「経尿道的水蒸気治療(Rezūmシステム)に関する適正使用指針 第2版」2026年 (日本泌尿器科学会)
日本泌尿器科学会ほか
「前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺吊り上げ術に使用されるUroLiftシステムの適正使用指針 第2版」2026年 (日本泌尿器科学会)
日本泌尿器科学会
「尿道狭窄症診療ガイドライン2024」(日本泌尿器科学会)
医学書院『臨床泌尿器科』76巻9号
「前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心」ほか (医書ジェーピー)
医学書院『臨床泌尿器科』77巻4号
尿路内視鏡手術・尿道狭窄内視鏡手術などの特集 (医書ジェーピー)
※本文は上記資料を参考に、一般の方向けに筆者が分かりやすく再構成したものであり、各資料の文章をそのまま転載したものではありません。


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